Blooming Wooing Audio

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pro iESL のレビュー(iFi Audio)

iFi Audioの"エナジャイザー” pro iESLのレビューです。

使用機材は変則的ですが、Luxman P700u → pro iESL → SR-009です。

2020年8月に購入したので、レビューします。

 

 

iFi Audioとpro iESL

iFi Audioは英国のオーディオメーカーでここ数年、特にヘッドフォン周りで存在感を示しているブランドです。比較的手に入れやすい価格でヘッドフォンアンプやDAC、また豊富なアクセサリを展開しています。私も、iLink(DDC)やiUSB Power(USB給電装置)、Gemini(USBケーブル)などを使用しています。

 

そんなiFi Audioの製品群の中で一際異彩を放っているのがpro iESLです。

iFiの中でも幾つかシリーズが有り、"pro"とついているのが据え置きのフラグシップラインです。pro iDSD(DAC)と pro iCAN(ヘッドフォンアンプ)に続いて出されたのが、このpro iESL(エナジャイザー)です。

 

エナジャイザーとは

”エナジャイザー”というカテゴリに入る機器は、世界中どのブランドを見ても恐らくiESLだけだと思います。iFiの製品ページがありますが、これを読んでもなんだか良く解らないのが正直なところだと思います。

ざっくり説明すると、コンデンサ(静電容量)型のヘッドフォンを、一般的なヘッドフォンアンプから駆動するための機材です。

 

コンデンサ型ヘッドフォンとは

ヘッドフォンには大きく3つの種類があります。ダイナミック型、BA(バランスド・アーマチュア)型、そしてコンデンサ型です。

世の中のスピーカーの99%以上はダイナミック型です。BA型は比較的高級なイヤフォンに採用されています。この2種類については、プレーヤーのヘッドフォン端子に繋げば音が出ます。

一方、コンデンサ型のヘッドフォンは専用のドライバを必要とします(一部例外がありますが)。これは高い電圧を常に供給する必要があるためで、普通のヘッドフォンアンプでは駆動することが出来ません。そのため、メーカーはヘッドフォンとドライバを両方開発していたり、セットで販売していたりします。

 

コンデンサ型のヘッドフォンメーカーとしては日本のSTAXが最も有名でしょう。最近は他にも増えてきて、HiFimanやSonoma Acoustics、Mr. Speakersなどが国内でも販売されるようになってきました。また、現在世界で最も高価なヘッドフォンであろうSennheiserのHE-1も、世界最高のイヤフォンだと思われるKSE1500もコンデンサ型です。

 

このように、専用のドライバが必要なうえ、価格も高いものばかりです。逆に言うと、それだけのデメリットがあっても使いたいと思うだけの価値があるのがコンデンサ型です。

詳しい説明は他に譲りますが、コンデンサ型のメリットとして、振動板が薄くできるうえ、固定する必要がないという点があります。

 

コンデンサ型のヘッドフォンとドライバ

このように、コンデンサ型のヘッドフォンでは専用のドライバが必要なため、各社それぞれの形で提供しています。

例えば、STAXはドライバをヘッドフォンとは別に販売しています。そのため、仮にSR-009で音楽を聴こうとすると、別にSRM-T8000や700S/Tなどのドライバを購入する必要があります。2つ買う必要がありますが、自分で好みの組み合わせを選ぶことが出来ます。

逆に、前述のHE-1やKSE1500などはヘッドフォンとドライバが一体になって販売されています。KSE1500はKSE1500のドライバでしか動きません。1つ買えば良いのでお手軽ですが、他に選択肢はありません。

 

pro iESLで出来ること

さて、ようやくiESLの話です。iESLは”エナジャイザー”ですが、これはコンデンサ型のヘッドフォンを駆動させるための機械です。つまり、コンデンサ型ヘッドフォンの前に繋げることで、音を出すことが出来るようになります。

ただ、すべてのコンデンサ型ヘッドフォンに対応しているわけではありません。一口にコンデンサ型と言っても、採用しているプラグや電圧が異なり、対応しているものとそうでないものがあります。

代表的なものだと、STAXSennheiser HE-60/90やMr. Speakersなどが対応しています。しかしKSE1500などは対応していません。

 

前段の方は普通はiFiのPro iCANと繋げるためのHDMI端子を使うのが一般的なようです。他に、スピーカー端子とXLR(4pin)からも入力できます。一般的なRCAやXLR(3pin×2)はありません。そもそも、前段がアンプである必要がありますので、DACなどからではボリュームが取れません。この点は注意が必要です。

 

試聴環境

最初にもちょっと書きましたが、環境としては

PC → Luxman DA-06 → Luxman P-700u → iFi Audio Pro iESL → SR-009

です。

 

普通、iESLを使う人は Pro iCANを前段に据える人が殆どだと思います。しかし私はP-700uの音が好きなので、この形にしました。

 

P-700uにはバランスヘッドフォン出力(4pinXLR×2)がありますので、ここから出力し、iESLの4pinXLRに入力します。そのために、ADLのiHP-4F3を使いました。ケーブルがかなり短いのでギリギリですが、何とか繋ぐことが出来ました。

また、前段がPro iCAN以外の場合、電源アダプタを繋ぐ必要があります。これはiFiのiPower Xというアダプタを使用しました。

 

音質レビュー

以前はSTAX SRM-727をパススルーで使っていたので、主にこれとの比較になります。

 

元々SR-009は基礎性能がずば抜けて高い機種です。精密で綺麗な音色、低音から高音までの自然でフラットなバランス、自然な広がりを見せつつも明確な音場、とすべての評価点に置いて高い能力を示す名機です。

 

iESLを繋いで音を出すと、さらに一皮剥けたような感じがします。特に音色が精緻で明確になります。一つ一つの音の粒が際立つというか、確かな存在感を持って聞こえてくるようになりました。それに伴い音場も明確になり、よりリアリティを持って聞こえて来ます。まさに、演奏者が何をしているのか目に浮かんでくるような感じです。帯域バランスは非の打ち所が無く、どこも無駄な主張をせず、それでいてはっきりと聞こえて来ます。

727使用時と比べて一番大きな違いを感じたのは、音の粒立ちです。一つ一つの音がより明確になり、存在感が際立ちます。727の時点で、十分澄み切った音だと感じていたのですが、iESLに変えると、上には上があるものだと感じさせられました。

 

T8000との比較

実は、購入前にSTAXSRM-T8000とPro iCAN+ iESLを聞き比べる機会がありました。アンプが違うので上記の感想と単純に比較は出来ませんが、ご参考までに。

 

はっきり言ってしまえば、T8000とiCAN+ iESLで優劣をつけるのは不可能だと思います。もちろん、違いがないわけではありません。ただ、どちらが勝っているとかではなく、あくまでも好みの差に過ぎないと感じました。

 

最も異なるのは音色だと思います。T8000は球と石のハイブリッド型だと思いますが、やや真空管っぽさが音色に現れてきます。角が取れたような丸みを帯びた柔らかい音色であり、木管や弦をとても綺麗に聞かせてくれます。そうした、生楽器の響きを重視する場合にはT8000に軍配が上がると思います。

一方、iESLの強みは究極にまで研ぎ澄まされたフラットさです。音色はソースを完璧に再現しており、まったく何も足さず、何も引きません。またノイズ感が少ないことも特長です。こうした厳密な原音忠実性が、目の前で演奏してくれているようなリアリティを引き立ててくれます。

 

実は、個人的に真空管の音があまり好きでは無いのです。そのため、SRM-727からのレベルアップに二の足を踏んでいました。SRM-700Sもあるのですが、値段ほどの価値を見いだせず、改めてiESLを聞いてみたら可能性を感じたため、購入を決意しました。

ただ、もちろんP-700u → iESLという環境で試聴はできないので、かなりのギャンブルスタートであったことは否定できません。しかし現在のところ、大変満足しており決断に間違いは無かったと思っています。

 

購入について

実は今回、iESLはシンガポールから個人輸入しました。Stereoというお店で、現地に住んでいた頃は足繁く通っていました。ちなみに、日本にも送料無料で送ってくれます。今回は在庫切れで3週間ほど待ったのですが、その代わりに、と速達便で送ってくれるなど、サービスはかなり良いです。

代理店の関係か、iFi製品はシンガポールの方がだいぶ安くなるようです。iESLと一緒に、iPower Xという電源アダプタも一緒に購入しました。(これは日本未発売だと思います)

 

まとめ

はっきり言って、マニアの極地の製品だと思います。iESLを購入するモチベーションがある人はかなり限られ、コンデンサ型のヘッドフォンを保有していて、なおかつ現在のドライバからレベルアップを図りたい、しかもお気に入りのヘッドフォンアンプを持っている人、となります。

 

コンデンサ型のハイエンドなドライバとしては前述のSTAX SRM-T8000の他にもBlue Hawaii、FIDELIX のSTACCATO、Woo Audio 3ESなど、少数ですが選択肢がないわけではありません。こうしたドライバを使ってお気に入りのヘッドフォンを鳴らすことも考えました。

 

iESLだけが持つ魅力として、それ自身がアンプでは無く、"エナジャイザー"であるため、手持ちのお気に入りのヘッドフォンアンプの特長を生かした形で自分のシステムに組み込むことが出来ることだと思います。

 

私としては、P700uの音色を大変気に入っており、これでSR-009を聞くことが出来る、ということが大変魅力的でした。

 

ともあれ、音色としてはほぼ自分の理想のものになったと思います。手持ちのコンデンサ型をよりブラッシュアップしたいと言う人にはぜひお薦めです。