Mjolnir Audioの静電型ヘッドフォン用アンプ、Carbon CCのレビューです。
静電型ヘッドフォンアンプとMjolnir Audioについて
ヘッドフォンのユニットにはいくつか種類がありますが、そのうちの一つが静電型(コンデンサー型)と呼ばれるものです。一番よく使われているダイナミック型に比べると、振動膜を薄く出来るというメリットがあり、音質的にはとても有利とされています。一方で、仕組み上高い電圧を常にかけている必要があり、専用のアンプ(ドライバ)が必要になります。
静電型ヘッドフォンで世界的に最も有名なのが、日本のSTAXです。私は長年STAXのヘッドフォンを愛用しており、現状の愛器はフラグシップのSR-X9000です。STAXはヘッドフォンとドライバを両方出していて、通常ですとそれを組み合わせて使うことになります。
しかし、ガレージメーカーの中には、STAXヘッドフォンに対応する静電型アンプを販売しているところがあります。昔から、STAXはヘッドフォンに対してアンプがやや弱いとされていて、それを独自に補ってきたわけです。日本でもいくつかのメーカーが販売しています。
そうしたサードパーティ製のアンプの中で最も有名なのは、Head ampのBlue Hawaiiでしょう。真空管のアンプで素晴らしい音がします。日本でも代理店がついていて、購入することができます。私も何度か試聴したことが、個人的にあまり球の音が好きでは無く、二の足を踏んでいました。
そのBlue Hawaiiを設計したのが、Kevin Glimoreという方です。このGilmore氏が設計したアンプにKGSSHV と呼ばれるシリーズがあり、設計が公開されています。そして、彼からライセンスを受けてKGSSHVの基にしたシリーズを販売しているのが、アイスランドのMjolnir Audioというガレージメーカーです。
Mjolnir Audioのアンプについては、以前展示会で参考出展として出ているものを聴いたことがあるのですが、大変素晴らしい音でした。今回、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、Mjolnir AudioからCarbon CCを購入したのでレビューいたします。
Mjolnir audioの静電型ヘッドフォンラインと電圧
webページを見ると、Mjolnir Audioの製品ラインが載っています。(すべて英語ですが)
Amplifiers for electrostatic headphones – Mjölnir-Audio
これを書いている時点では、フラグシップがCarbon CCというものになり、他にCarbonや、KGSTなど、幾つかの製品があります。
Mjolnir Audioはアイスランドにあるので、電圧が基本的には230V/117Vですが、注文する際に、日本に住んでいるので100Vに出来ないか、と相談したところ、快く100Vにしてくれました。(追加の部品代が200ドルくらいかかりました)
Carbon CCを注文してPaypalで支払いをし、1週間ほどで自宅まで届きました。国際便と言うことでちょっと心配していましたが、厳重に梱包されており、何も問題ありませんでした。
Carbon CCの仕様
静電型ヘッドフォンのアナログアンプであり、機能としては最低限です。
入力端子はXLRのバランス入力1系統のみ。
出力は580VのSTAX互換ヘッドフォン出力が2つで、静電型ヘッドフォンしか駆動できません。
ダイナミック型と併用することを考えてだと思いますが、XLRのパススルー出力がついているのがありがたいです。私の場合、DACからバランスでCarbon CCに入れて、パススルーから普通のヘッドフォンアンプ(Re・leaf E5 studio)に繋いでおり、使いたいヘッドフォンによって、電源を入れるアンプを変えています。
入出力の端子以外は電源ボタンとボリュームがあるだけで、機能としてはシンプル極まりないものになります。
ちなみにこのアンプ、写真だけだと解りにくいですが、左右の両端がヒートシンクのようになっています。なぜこんな形なのかと思っていましたが、使うと理由はすぐわかります。かなり発熱し、天板に触っていられないくらいです。設置場所には注意が必要で、重ね置きなどはもってのほかでしょう。
付属品は何もついてこないので、電源コードやXLRケーブルは別途用意する必要がありますが、これを買うような人には問題ないでしょう。
レビュー環境
前置きが長くなりましたが、レビューに入りたいと思います。
環境は
自作PC/iFi Zen Stream → Soulnote D-2 → Carbon CC → Stax SR-X9000となります。
音質レビュー
当然ですが、もの凄く素晴らしい音です。(ヘッドフォンがSR-X9000なので当たり前と言えば当たり前ですが……)特に、音の細やかさ、音場の明確さ、上下のレンジの広さは他の追随を許しません。基礎性能がもの凄く高く、とても丁寧に作られたものだということが判ります。
今までのiFi iESLやSTAX純正のアンプと比べると、おおよそ以下のような特長があると思います。
まず、帯域バランスがやや低音上がりになります。もともと、STAXのヘッドフォンはダイナミック型の高級機と比べ、低音が薄いと言われることが多いです。しかし、Carbon CCを通すと低音がほどよく強化され、良く制動された低域が音楽全体を下支えしてくれるようになります。強化されるといってもブーミーな感じではなく、SR-X9000が元々持っている、深く沈み込む丁寧な低音はそのままに、少しバランスを整えてくれた感じになります。
また、音場や音の細やかさ、正確性についても強化されたように思います。特に、STAX純正機と比べると、見通しがよくなりくっきりした感じになるように思います。球を使っていないからか、より冷静な鳴らし方になるように感じます。(もしかしたら、球の音が好きな人からすると、やや温かみが失われると思うかも知れません)
総じて、音質としては、一皮剥けたどころか二皮くらい剥けたようなイメージです。
ただ、音質として全体的に向上したのが感じられる一方で、鳴らし方としてはややダイナミック型に近づきます。帯域バランスや帯域の広さ、音の滑らかさなど、単体では理想的な音に近づきますが、STAX特有の何か、というものはやや薄れるかもしれません。
まとめ
総じて、素晴らしい製品だと思います。STAXのヘッドフォンが本来持っている実力をいかんなく発揮させてくれます。ただ、あまりに完璧に近づきすぎるが故に、ダイナミック型ヘッドフォンとの使い分け、みたいなことを考えると尖っている部分はやや丸くなる、という捉え方もできるかと思います。
円安もあり、かなり高価な製品になってしまいましたが、それだけの価値があるアンプだと思います。