Blooming Wooing Audio

オーディオや音楽についてのblogです。手持ち機器のレビューやイベント参加感想など。

K701 のレビュー(AKG・バランス化済み)

AKGのヘッドフォン、K701のレビューです。

 

K701はかつてはAKGのフラグシップ機でしたが、マイナーチェンジされた

Q701やK702,K712などが乱立した珍しい機種です。

ちなみに各機種の音質はほとんど変わらず、色違いと言って良い程度のレベルの差しかありません。

現在のフラグシップはK812となっており、こちらも素晴らしい音質です。

 

K701の音質(アンバランス時)

かなり完成度の高い機種です。バランスはほとんどフラットですが、やや低音は控えめ。そのおかげとでも言うべきか、中高音域は非常に見晴らしが良く明確です。音色はけっこう柔らかめで、聴いていて心地が良いです。波形の再現性は極めて高く、解像度・原音忠実製はかなりのものです。

 

しかし、この機種の最も特筆すべき特長は音場です。極めて広大で、あらゆるヘッドフォンの中でも一、二を争うほど。しかも定位が非常に明確で演奏者の配置が目に浮かぶようです。

 

弦楽器や木管、あるいは女性ヴォーカルなどは非常に上手く鳴らします。音色がとても綺麗に聞こえて、うっとりしそうなほどです。クラシックの場合はフルオーケストラよりも室内楽などの方が真価を発揮するでしょう。

一方、低音の量が少ないためにロックなどには向きません。

 

また、インピーダンスが高く能率が悪いため、アンプがしっかりしていないと慣らしきることが出来ません。高級ヘッドフォンの宿命ですね……。

 

K701のケーブル

先ほど、K701には色違いの製品が多く出ていると説明しました。しかし、K701は他のQ701やK702などとは一つだけ大きな違いがあります。

K701だけはケーブルを着脱できません。また、他の機種が3芯のケーブルなのに対し、K701は4芯です。

 

4芯であるということは、コネクタだけ付け替えれば簡単にバランス化できると言うことです。X-HA1を購入したのを機会に、早速付け替えました。

 

バランス化後の音質

X-HA1のレビューでも書いたのですが、音質は劇的に向上します。しかしK701の個性は変わりません。基本的な性格はアンバランス時のままで、低音がはっきりし、基礎性能が向上します。

 

HD800との比較

個人的にリファレンスとして使っているSennheiserのHD800と比較してみました。

基本的な性格はよく似ています。広大な音場が特長で、帯域バランスも優れており、解像度も高いです。

やや鳴らし方には違いがあります。K701は低音が控えめで中音から高音へはすっと癖無く伸びていきます。

一方、HD800はしっかり低音が出ます。また、高音の一部が少し強調され、煌びやかに鳴らす機種です。

 

解像度や高音の抜けなどの基礎性能については、やはりHD800の方に分があります。しかしK701をバランス化すると、アンバランスのHD800にかなり肉薄することが出来ます。まあ、HD800をバランス化すると、結局差が付いてしまうんですけど……。

 

総評

非常に優秀な機種です。特に平行輸入時の金額を考えると、かなりお買い得な機種でしょう。まあ、上流を整えない限り真価を発揮出来ないので、結局それなりの投資が必要ですが……。

音色の綺麗さと音場については白眉です。これ一本で何でも鳴らせるわけではないですが、ヘッドフォン好きなら是非持っていて欲しい機種です。

 

AKG K701 リファレンスヘッドホン 並行輸入品

AKG K701 リファレンスヘッドホン 並行輸入品

 

 

X-HA1のレビュー(Nmode)

Nmodeのヘッドフォンアンプ、X-HA1のレビューです。

 

Nmodeは比較的安価で高品質な機器を出している新興のメーカーです。特にPCオーディオに強みを持っているようで、ヘッドフォンアンプだけでなくDACなども高い評価を受けています。

実はあまり買うつもりはなかったのですが、先日のヘッドフォン祭りでセールになっていたため、つい食指が伸びてしまいました。

 

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X-HA1の仕様

X-HA1の素晴らしいところは、この価格でヘッドフォンのバランス駆動に対応しているところでしょう。方式はXLRです(2番HOT)。当然、通常の6.3mmステレオジャックにも出力できます。

入力はXLRとRCAが1系統ずつ。また、それぞれにパススルー端子がついているのも、ヘッドフォンアンプを複数持っている身としてはありがたいところです。

前面には入力切り替え(RCA/XLR)、出力切り替え(バランス/アンバランス)ゲイン切り替え(High/Low)の三つのレバーがあります。出入力の種類が多く、どんな環境であっても対応出来るアンプです。

 

X-HA1の音質(アンバランス)

繋いで音を聞いてみました。環境はPS AudioのDLIIIからAVケーブルテクノロジーズのST-1QでXLR端子に入力しました。ヘッドフォンはSennheiserのHD800です。

 

かなり元気の良い音です。音に力感が感じられ、ぐいぐい引っ張られていくような印象です。帯域バランスは基本フラットからやや低音寄りで、超低音もそこそこでます。中音域も丁寧に鳴らしているように感じますし、高音も綺麗に聞こえてきます。

一音、一音の輪郭がはっきりとなぞられているような、切れの良い音です。一つ一つの音がしっかりとした輪郭を持ち聞こえてくる反面、やや音色がきつく感じるかも知れません。

 

バランス接続での音質

バランス駆動のヘッドフォンも繋いでみました。バランス駆動のヘッドフォンを一つも持っていなかったので、手持ちのAKG K701にXLR端子を半田付けし、急遽バランス対応にしました。

 

一聴して驚きました。K701は素晴らしいヘッドフォンなのですが、そこからさらにレベルアップしました。

元々のK701はやや控えめな低音の上に見晴らしの良い中高音が広がるようなバランスです。広大な音場と柔らかな音色が特徴的な、癒し系ヘッドフォンでした。個人的にもとてもお気に入りの一品です。

バランス化しても、基本的な印象は変わりません。それはそうです。音質のほとんどを決定する、スピーカーユニットがそのままなので大きな変化が起こるはずはないのです。帯域バランスも、特徴的な音場も少しも損なわれることはありません。K701がHD800やEdition9になったりはしないのです。

 

しかし、バランス化したことで明らかに低音が改善しました。アンバランスの場合、低音の量が少ない上に音の像がやや曖昧なため、少し腰が据わっていない印象がありました。しかしXLRで繋いだところ、控えめは控えめながら、一本骨の通った、上品なベースが聞こえてくるようになりました。

 

 

Black cube linear proとの比較

同じ価格帯のBCLと比較してみました。

音の切れ、勢いの良さなどはX-HA1の方が勝っているように思います。一つ一つの音がはっきりしているのが特徴的です。

一方、BCL Proの強みは音場の明確さとバランスの良さ、そしてノイズ感の少なさです。X-HA1はデジタルアンプであるため、どうしてもホワイトノイズが出てしまいます。ゲイン切り替えがありますので、HD800のような高インピーダンスのヘッドフォンならまず気にならないのですが、Edition9やK3003を繋ぐと違いが出ます。

しかしどちらも高い実力を秘めている素晴らしいアンプです。性格がまったくことなるため、高いレベルで使い分けが可能だと思います。ノリや勢い、密接したボーカルなどを味わいたいならX-HA1、冷静で高い基礎能力を生かした精緻なオーディオを味わいたいときにはBCL。個人的にはそんな印象です。

 

総評

まず、この価格でバランス駆動に対応しているという一点だけで価値があります。とりあえずバランスヘッドフォンを試してみたい人には最適でしょう。

ヘッドフォンアンプそのものの性能としてもとても優秀です。デジタルアンプらしい、とでも言うべきか、輪郭のはっきりしたスピード感溢れる音がとても爽快です。入出力端子が豊富なこともあり、どんな環境でも安定した能力を発揮してくれると思います。

 

 

4C-XEWのレビュー(AVケーブルテクノロジーズ)

AVケーブルテクノロジーズのデジタルケーブル、4C-XEWのレビューです。

 

AVケーブルテクノロジーズとは

根岸邦夫氏が主宰しているケーブル専門のガレージメーカです。

根岸氏はステレオサウンド無線と実験などのオーディオ雑誌によく記事が掲載されている方で、オーディオ機器に対してかなり技術的なアプローチを行っているようです。公式ホームページの技術解説は一読の価値があると思います。

 

4C-XEWの音質

iFi Audio のiLinkからPS AudioのDLIIIまでの間の接続に使っています。

繋いで聴いてみると、すぐに音の細やかさが格段にアップしたことが判ります。デジタル信号が正確に伝わり、波形の再現性が増したのでしょう。今まで埋もれていた微細な音も聞き取れるようになりますし、音色も綺麗で自然になったように感じられます。再現性が増しすぎて、打ち込みかどうか明瞭に聞き分けられるほどです。

 

音のバランスには変化は感じられません。経験上ですが、デジタル段の機器やケーブルを替えても、音のバランスは変化しないように思います。むしろ音の細やかさや音場の広さへの影響が大きいように思います。

 

デジタルケーブルの設計

素敵な音を出してくれる4C-XEWですが、これはデジタル専用ではなく、アナログ用としても使えるそうです。

しかし、アナログケーブルとデジタルケーブルって何が違うのでしょう? 流れている信号が違うだけでケーブルの構造は変わらないはずです。端子も同じRCAやBNCですしね。

 

実は、流れている信号の違いが大きく違うそうなのです。アナログ信号は当然、通常の音域と同じ10Hz~20kHz程度ですが、デジタル信号はもっと高周波です。そのため、高周波域を重視して、抵抗値やシールドを設計しているそうです。ケーブルの線材だけでなく、設計にも大きなこだわりがあるのですね。

 

総評

4C-XEWはかなり優れたデジタルケーブルです。繋ぐことで、今までの機器が2,3レベルアップしたように感じます。

もちろん、ヘッドフォンやスピーカーを替えたときほどの大きな違いはありません。しかし、お気に入りのオーディオ機器の実力をいかんなく発揮させてやるためには、こうしたしっかりとしたアクセサリが必要だと思います。

ヘッドフォン祭2014春に行ってきました!

中野で行われたヘッドフォンフェスティバル 2014Springに参加してきました。

実は私、日本国内で開催されたヘッドフォン系のイベントに参加するのは初めてです。ただ、昨年シンガポールで行われたMook Headphone Festivalには2回行ったので、大体同じ雰囲気だと思っていたのですが……。そのうち、シンガポールのオーディオ事情も書きたいと思います。

 

想定外の人手

正直、これほど来場人数が多いとは思っていませんでした。だってシンガポールのは、(最終日だったのもあるとは思いますが)時間帯によっては閑散としていたくらいだったのですから。当然、入場を待ったことなどありません。

 

それが、サンプラザ前についたときに目を疑いました。いえ、正直に言って、他のイベントの入場列だと思ったのです。実際、アイドルのコンサートがあったようですが、それを遥かに上回る人の列、列、列……。

11時半より前にはサンプラザについたのですが、屋外に並んでいただけでも概算で300名ほどはいたでしょうか。屋内にはまだ並んでいたはずです。まあ、会場階が上の方だったため、エレベータでピストン輸送となったのが要因だとは思いますが。

12時半頃屋内に入ったところで、階段を使っても良い、と言われたので登りました。息も絶え絶えになりながら13階まで。3年前にはエッフェル塔に登ったはずなんですけど、老いるって嫌ですね。

 

印象に残った製品

会場をぶらぶらしながら興味を持ったブースで試聴させてもらったのですが、特に印象に残った物を紹介します。

 

JVC Kenwood DAC内臓ポータブルヘッドフォンアンプ SU-AX7

待っていました! Kenwwodからポータブルアンプが出るのを!

 

私はKenwoodがかなり前に出したDAP、MediaKegをいまだに使っています。当時、高音質なポータブル環境はそれくらいしかありませんでしたし、後発のDAPやアンプが出た今となっても、最高クラスの一品です。今主流のPHA-2やHP-P1 with iPod、あるいはAK120と比べても上だと判断しているのです。いえ、さすがにDSD再生のAK240辺りと比べられると厳しいものがありますが……。

 

そのMedia Kegの設計思想を受け継いだ(かどうかは知りませんが)アンプの登場ということで、期待に胸膨らませながら試聴しました。イヤフォンは当然K3003。

素晴らしいの一言!

極めてハイレンジです。低音の本当に低いところから高音まできちんと出ているのが感じられます。特に低音は驚異的です。ポータブル環境でここまで低い音が出せるとは思っていませんでした。手持ちのK3003が2ランクぐらいアップしたような気分です。

しかもバランスが素晴らしい。ポータブルアンプに良くあると思うのですが、低音の一部分を膨らませて味付けしてある物。恐らく、イヤフォンやポータブルヘッドフォンの低音不足を補うためだと思うのですが、不自然に感じることが多いです。

しかし、このアンプは妙な味付けもなく、自然なままでしっかり出している。余計な誤魔化しのいらない基礎体力の高いモデルです。

お値段はFostexのHP-P1より少し高いみたいです。発売されたらすぐに買ってしまうと思います。

 

Dita Audio イヤフォンAnswer/Truth

Dita Audioはシンガポールの新興のイヤフォンメーカーです。その今のところ唯一の製品なのだと思います。

実はこのイヤフォンを試聴するのは今回が初めてではありません。シンガポールにいたときに1度聴かせてもらいました。今回、改めて試聴しました。

 

率直に言えば、かなり良いイヤフォンです。私自身の好みを加味していうなら、「K3003に肉薄できる唯一のイヤフォン」です。

マルチドライバ全盛の高級イヤフォン市場に置いて、珍しいフルレンジのダイナミック一つのみ。たしか、SennheiserのIE8もそうだったように記憶していますが、多分それくらいでしょう。

 

バランスはフラット。低音は質・量ともに素晴らしいものがあります。UE900やIE800、SE846をも凌駕する出来。中音域もとても表現豊かに聴かせてくれます。

唯一、高音の抜けに関してはK3003の後塵を拝してしまいます。しかし聞き比べてやっと判るレベルで、価格差を考えればDita Audioを選ぶ人も多いのではないかと。かくいう私も、もしK3003を持っていなかったらこちらを買っていたかも、というレベル。

 

懐かしい顔

何人か、シンガポールのHeadphone fesで見かけた人がいました。マス工房やRudistorの方、後はJabenやDitaの人など……。私のことに気が付いたのはお一人だけでしたが。

なかでも一番懐かしかったのはJabenのクマです。あのクマがAdelphiにあるJabenのシンガポール店ではところせましと置いてあったので、妙に感慨深くなりました。

 

散財

(ついうっかり)物販でNmodeのバランスヘッドフォンアンプX-HA1を買ってしまいました。いや、迷ったんですけど……。そのうちレビューも書きたいと思います。

 

そんなわけで、楽しいヘッドフォン祭りでした。

NS-1 classicsのレビュー(YAMAHA)

YAMAHAのブックシェルフ型スピーカー、NS-1 classicsのレビューです。

 

88年に発売された2wayのブックシェルフ型モニタリングスピーカーです。一世を風靡したNS-10MやNS-1000Mの後継機となります。

私はSoulnoteのsa1.0からAVケーブルテクノロジーズのSP-6Pを繋いで使っています。

 

往年の名器

88年発売と言うことで、もう25年以上経っているスピーカーですが、まだまだ素晴らしい音を奏でてくれます。外見もとても美しいです。

16cmのウーハーと3cmのツィーターの組み合わせで、バイワイヤリングなどは出来ません。また6Ωと抵抗が小さく86dbと能率がやや悪いのも特長です。その分ノイズには強くモニター用として開発された証拠と言えるでしょう。

 

柔らかい中音重視のサウンド

音の傾向としてはかなりフラットですが、ややかまぼこ型のバランスです。特に中音域は素晴らしいの一言! 少し柔らかめの音色で、弦楽器や木管、女性ヴォーカルなどはあまりの美しい音色に鳥肌が立ちそうです。

高音域もきちんとでます。耳にキンキン刺さるような音ではなく、見通しの良いスッキリとした伸びのある高音です。

低音はかなりタイトですが量はそれなりに出ます。しかしウーハーが16cmと余り大きくないために、超低音は出ません。それを聞き分けられるだけのソースはごく稀ですが……。

 

最高のニアフィールド・リスニング

そして何よりの特長は、ボリュームをそこまで上げなくても、きちんと音を奏でられるところです。

通常、スピーカーで音を出す場合、ある程度音量を上げない限り本領を発揮してくれません。しかしNS-1 classicsに限っては、そこそこの音量でも十分に実力を見せつけてくれます。

サイズから考えても、NS-1 classicsより高音質なスピーカーはあるでしょう。しかし、それは専用のオーディオルームと高出力のアンプがあってこそのことです。しかし、そんな環境を用意出来る人は、ほんの一握りではないでしょうか。

ちょっとリビングや書斎で音楽を聴きたい。珈琲を入れて読書でもしながらリラックスしたい。そんな場面において、このスピーカーの右に出る物は存在しないと断言できます。

 

総評

柔らかい音色のモニタリングスピーカーとして、とても高い実力を持っています。上流を整えればその実力を存分に引き出せるでしょう。

さらに、ちょっと音楽を聴いてリラックスしたい。そんな用途に最適な、ニアフィールド・スピーカーです。

Gemini のレビュー(iFi Audio)

iFi AudioのUSBケーブル、Geminiのレビューです。

 

オーディオの音質がUSBケーブルで変わるのか、ということには議論があるところですが、技術的な部分に関しては記事を書きました。少なくとも信号が変わる可能性はある、という結論に達したので、このBlogでは変わること前提で進めたいと思います。

 

 

Geminiの音質

私はPCやMacに弱電線を繋ぎ、強電線はiUSB Powerに繋いでいます。その二つから得られた電力と信号をUSB DDCであるiLinkに流し込んでいるわけです。

肝心の音ですが、付属品としてついてきたようなケーブルと聴き比べると一聴して違いが解ります。何というか、とても正確な音、といった印象を受けます。一枚ベールを剥いだような、とても広がりのある音楽に変貌します。

解像度が高くなっているように思います。低音はタイトに制動されているように感じますし、高音の抜けはかなり良くなります。また、音の分離も良くなるので、ややモニタライクに近づいた印象です。

 

Forest USBとの比較

Gemini を購入する前は、AudioquestのForest USBを使っていましたが、そちらと比べても変化は大きいです。Geminiの方がレンジが広く、抜けが言い様に感じます。逆にForest USBの方がややパワフルな印象を受けますが、やや雑な気がします。上位モデルであるCarbon USBなども気になるところです。一度聞き比べて見たいのですが、まだ機会がありません。

 

Geminiの構造

まず一目見ただけで通常のUSBケーブルと異なっていることが解ります。二本のケーブルがセットになっています。片方は信号だけが流れる弱電線、もう片方は電力が流れる強電線です。当然、使用するためにはPC側に空きポートが2つ必要になります。「Gemini」とは「双子座」の意味でこの構造から取られたのでしょう。もっとも、二つのケーブルの中身は異なるはずですが.……。

この一見珍妙な設計には2つのメリットがあります。

一つは、強電線を流れる電力としての電気から発せられたノイズが弱電線を流れる音楽信号に悪影響を与えるのを防げることです。

もう一つは、バスパワー駆動の機器の場合に限られますが、電力をPCから供給しなくて済むことです。ノイズが多いと思われるPCの内部から電力を取るよりは、外部にアダプタを繋ぐことで、より綺麗な電源を取ることができます。私は外部電源として、同じiFiの「iUSB Power」を使用しています。

 

このようにとても理に適った構造ですが、iFi Audio独自の技術と言うわけではありません。アコースティックリバイブが先にこの構造の物を作ったように記憶しています。特許も出願しているようですが……。

 

総評

USBケーブルの交換はかなり変化が大きい用に感じます。デジタル段の中では一番ではないでしょうか。もっともその要因は、USBの仕様自体に問題があるからだ、というような気もしないでもないですが。デジタル段なのにエラー訂正も出来ず、強電線とも密接しているので……。

逆に言うと、問題が大きいからこそ手の入れ甲斐があるとも考えられます。PCから音楽を聴く場合には、かなり重要な箇所だと考えた方が良いでしょう。

Geminiに限らず、二本に別れているUSBケーブルの場合、外部電源が取れるという非常に大きなメリットがあります。一度挑戦してみるだけの価値はあるでしょう。

 

 

USBケーブルで音は変わるのか?

ケーブルで本当に音が変わるのか?

オーディオに拘る人にとって、ケーブルを替えることで音質をアップさせるというのはかなり市民権を得たアプローチです。しかし一方で、ケーブルで音が本当に変わるのか懐疑的な見方をする方が多いのも事実です。

そこで、今回はUSBケーブルで音が変わる技術的な仕組みを少し調べてみました。

結論だけ先に書くと、USBケーブルによって音質が変わることは有り得ます。それは技術的に根拠のあることです。

 

しかし、あくまで技術的なアプローチなので、「信号が電気的にどう変わるのか」のみを扱っています。

「人の耳で聞き分けられるほどの大きな違いなのか」については今回は触れていません。その判断をするためには別方向(例えば統計学や脳科学など)からのアプローチが必要となるでしょう。

 

USBケーブルの構造

簡単にUSBケーブルの構造を説明しますと、大きく二つの部分で出来ています。一つは信号としての電気を伝えるための導体(弱電線)。もう一つが動力としての電気を伝える導体です(強電線)。

当然、オーディオ信号は弱電線を流れています。バスパワーで駆動する機器の場合、強電線には機器を動作させるための電力がふんだんに流れています。ただし、外部電源を使用している機器の場合でも、強電線に一切電流が流れないわけではありません。

巷には強電線を排した弱電線のみのUSBケーブルも販売されていますが、一部動作しない機器もあるようです。

 

 

デジタル信号は変化しない?

USBケーブルを流れているのは、デジタル信号です。よく知られているように、デジタル信号は「0」と「1」だけで出来た信号です。アナログ信号に比べ劣化することが少なく、簡単に複製が出来、長期的な保存に向いています。実際に、たとえばUSB接続の外付けHDDにデータをコピーしても、オリジナルとデータが違ってしまうことはまずありません。そうじゃなかったら、記憶媒体として使い物にならないですからね……。保存したデータやプログラムが書き換わっていたら大問題です。

そう考えると、USBケーブルがどんなものであろうとも音質は変化しないように感じられます。何しろデータが変わるなどと言うことは、HDDを見る限りあり得ないようなのですから。

しかし実は同じUSB接続でも、オーディオ機器とHDDではその内部処理は大きく異なっているのです。

 

USBのデータ伝送方式

実はUSB接続では、データの転送にいくつか種類があります。

HDDで使われているのは「バルク転送」と呼ばれる方式です。これはデータの整合性を強く重視した方式です。転送時、データに誤りがあるような場合には、上流側にエラー訂正を要求することが出来、確実な転送を可能にしています。一方で、エラーが多い場合には頻繁にエラー訂正が起こることになり、速度については保証がありません。

 

オーディオ機器で採用されているのは「アイソクロナス転送」です。こちらは何より速度を優先しています。エラー訂正を行わない代わりに、一定の転送速度を保証します。

仮にエラーが多く、訂正処理が頻発するようだと、再生速度にデータ転送速度が間に合わなくなり、音楽が止まってしまう可能性があるので、このような方式が採られているようです。

 

つまり、USBオーディオ機器の場合、DACDDCが受け取ったデータが音源のソースと異なっていたとしても、そのまま再生されることとなります。

 

 

USBケーブルが影響を与える範囲

転送方式に「アイソクロナス転送」を採用している以上、USBケーブルで音が変わることは有り得ます。

特に、強電線と弱電線の距離が近いのが問題になりえます。強電線が発するノイズが悪影響を与えるので、弱電線を流れているオーディオ信号にエラーが発生する確率は、他のデジタル段に比べても、かなり高いように思われます。また、当然ながらケーブルだけでなく、USBボードなどでも影響が出ると考えられます。

一方で、外付けHDDに音楽データを保存していて、HDDとPCの接続にオーディオ用のUSBケーブルを使っている方を時折見かけます。しかしHDD接続時は「バルク転送」であり、エラー訂正が働くので、音質に影響はないと考えるのが自然です。

同様に、NASを接続しているLANケーブルを替えても影響は無いでしょう。挙げ句の果てにはオーディオ用SATAケーブルなんてのも見たことがありますが、言うまでもないでしょう。

デジタル段で、エラー訂正が働き、下流に十分なバッファがある環境ならば、ケーブルによって音が変わることは、よっぽどの劣悪な環境でもない限り考えにくいです。

 

 

結論

PCオーディオに興味がある方は、USBケーブルにも気を遣うべきだと思います。しかし、気にするのはオーディオ機器だけで良くHDDなどの記憶媒体との接続は通常のもので十分です。